カテゴリー
映画レビュー

029 「永遠のこどもたち」(2008)

<基本情報>
2008年アカデミー外国映画賞の、スペイン代表に選出される。
製作を、「パンズ・ラビリンス」のギレルモ・デル・トロが、担当する。
今作が長編デビューとなる、J・A・バヨナが監督を務め、本国でも、多数の賞に輝く。
息子であるシモン(ロジェール・プリンセプ)に対する、母親の深い愛を、切迫感をもって描く。

 僕は、ホラーを好んで観る方ではない。怖いのが、あまり得意ではなく、なんなら穏やかな気持ちで、終わりを迎えたい。だけど、この作品は、優しい感触が、しっくりと心に爪痕を残す。まず、特定のジャンルに分けるのが、難しい。しっかりと、恐怖を煽る演出も含んでいる。だけど、それだけじゃない。ファンタジー要素や、スピリチュアルといった精神世界に誘う世界観もある。魂の行方を、模索していく。そんな、途方もない行為を、念入りに練られたストーリーとともに、描写していく。

 母が、子を想う。それは、一見ありふれた感情かもしれない。だけど、その奥には、人間の過去や、記憶が、眠っていることを思い知らされる。愛情に飢える者、溺愛されて育てられた子ども、横行する虐待、幾重にも重なる、親たちの複雑な思惑が、社会にのみこまれていく。どうして、他者を愛することは、願い叶わないんだろう。相手に、思いをぶつけるたびに、すかされる。まるで、自分の存在が、無意味に感じる。空虚に満ちた、尖ったナイフが、どこかでまた、誰かを傷つけていく。なんらかの救いを求める、亡者の声が、虚しく響きながら、命あるものに、伝言を送る。それに、明確な言葉は、いらない。

 死後の世界を、思い描く。僕らが、所属している社会によって、異なる思想は、いつか集約され、ひとつになるんだろうか。生きていくことに、苦難が立ちはだかる。それでも、死んでしまった先に何があるのかが、分からない。浮遊する思考たちが、埃みたいに、舞っている。そこに差し込む太陽の光が、恒久性を帯びているかのように、輝く。安心をもたらす答えは、一向にみえない。そこはかとなく、湧き出る悲しみは、たぶん尽きない。それなら、遠い記憶に秘められた母性に、立ち返る。きっと、そこは、子どもたちの、永遠の住処だ。

作成者: 木下 拓也

1987年、大阪生まれ。ライター志望。
兵庫の大学を卒業してから、フリーターとして働いています。
セクシュアリティーは、人生を豊かにすると信じる人間です。
書いて、伝えることを大切にしています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です