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思考

模倣

 人とは違う部分を、武器にして、お金にかえる時代がきたと、一人の賢者が語る。誰だって、不完全な自分を、消すことなんてできない。ありのままの個性が、すでに、愛されているというのは、少し呑気すぎやしないか。その他大勢に埋もれながら、私という牢獄のなかで、もがきながら生きていく人生に、辟易している。

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・哀愁
 才能、オリジナリティー、非凡さだけが、この社会を、生き抜くために、必要なんだ。そういって、なんの取り柄もない人を、排除していく。都会の波に、もまれながら、ずる賢さを、身につけていく日々。まがいものが、氾濫する世界において、今度は、誰が、偽物をつかまされるのかを、注視する、他人のまなざしは、どこか、哀愁さえ、漂っている。

・ひずみ
 排斥するのが、目的なんだと、堂々と、主張する彼らのなかに眠る、劣等感と、自尊心。どんどんと、生きづらくなる世の中に、なにかものを言いたげな、心のひずみは、隠しようがない。独自性を、尊重するというきれいごとのそばで、ひとりひとりが抱える、ここに至までの、複雑な経過を、蔑ろにしているのは、乱暴のほか、なにものでもない。

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 人格も、性格も、人間性も、断片的なものによって、形づくられている。いま、僕が発する言葉も、時折みせる仕草や、頭の中を巡る思考さえも、すべて、模倣に過ぎないなら、この私という自我は、どこからやってきて、そして、どこに、向かっているのだろう。年の瀬の、慌ただしさのなかに身を任せては、どこか、ぎこちない大人になりきれない自分を、さらけ出す。傷つくことを恐れて、震えている誰かへ。良い年を、迎えることができるように、祈りをこめて。

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思考

ここではないどこかをめざして

 人生のなかで、どうしても、折り合いのつかないことを、笑ってやりすごすことができる。そうやって、どうしようもない自分というものと、なんとか、付き合っていけるのだろう。僕たちは、僕たちの人生に、縛りつけられている。いろんな不充分さを抱えた、この自分というものに、閉じこめられて、一生を、生きるのだ。

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・鎖を解く
 家庭や、結婚は、こうあるべきとか、女性や、男性は、こうあるべきだと、思い込んでいて、それが、がんじがらめに縛る、鎖になっている気がする。そして、そこから、外れた人は、自分が、悪いのではないか、自分は、もう幸せになれないのではないかと、思い込まされる。

・区別から逃げる
 同性愛の人、子どもが、できない人など、家族や結婚に関してだけでも、いろいろな生き方がある。それに、働き方や趣味のありかたなど、生きていくうえで、している、ありとあらゆることについて、良いものと、良くないものが、決められ、区別されていく。まるで、自分は、幸せについて、正解を、知っているかのように、語りだす。それは、ひとつの暴力なんだと、思う。

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 僕らは、いつでも、出口を探している。あるいは、生きている実感、リアリティーを、欲している。そのためには、他人だって、傷つけるし、手首を切って、生暖かい血に、浸ってもいいのだ。それほどまでに、今を生きていく困難さを、訴えたい衝動は、止まらない。
 実際は、自分が住んでいる街のことしか、知らない。まるで、好きなところへと、出かけていく自由を、剥奪された身として、生きているみたい。でも、外の世界にむかって、開いている窓をあけて、どこにでも行くことのできる感覚は、何なんだろう。僕らは常に、ここではない、どこかをめざしている。