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自分のこと

メランコリックな感情と、ディセンシーの問題

 世界は、難解な言葉づかいで、満ちている。空想のなかで、乱反射する言葉たちと光と影。その中で、僕に理解できる言語なんて、たかが知れている。心に猛烈に響く言葉は、春の風とともに、胸の奥底に吸収されていくみたいだ。いつかは、誰もがみな消えていくならば、ここに存在する魂と、愛に似た青いメランコリックな感情は、無意味にさえ思う。親にたいする敬意や尊敬を忘れてしまうほど僕は、愚かではないと胸に焼き付け、今日を生きる。

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・姑息
 バイ・セクシュアリティーというのを、説明するのに、ひどく苦労する。そもそも、僕がバイなのかさえ、あんまりよく分かってないのに。男好きの男ですというよりも、ほんとは女の子も好きなんだけどという予防線をはって、すこしは、みんなと共有できる部分があることを強調したい僕の姑息な計算が、そこにはある。それって浅はかだし、惨めだし、いったい、何にたいして体裁を整えてるのかさえ、分からなくなる。

・ニーチェの言葉
 でも、今の僕には分かる。そんなことにこだわる必要なんて、どこにもないのだ。相手が僕のことを知って、僕が相手について質問する。そのかけあいのなかで、相互理解に達する最短距離を、導き出していけばいい。僕は、こんな人間なんですと、一言で言い表せれば、どんなに楽だろうか。同性愛者だというレッテルを貼られることに、恐れを抱いてはいけない。「最高の善なる悟性とは、恐怖を持たぬこと」と、ニーチェは語る。

・命の灯火
 ひとさまの恋愛に、興味はなくても、コミュニケーションを継続していく上で、相手に自分の話をしなければいけない状況に置かれる時がある。それは、とても窮屈なんだけど。そんなときにいつも困惑するのだけど、最近は、正直に全部話すのがいいと思い当たった。僕は今、男性とお付き合いしていると、話すことにしている。それが、後ろ指をさされようと、構わない。白い目で見られても、気にしない。それなりに年を重ねた僕は、前よりかは、大人になった。強さとも言える人生においての教訓は、まだ一人で思い悩む彼、彼女たちに届くと願っている。消えかけた命の灯火を、葬ってはいけない。

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 いわゆる、ディセンシーの問題だ。なにが、人と人を結ぶのか。シンプルだけど、難解な問いかけは、今日も、夕日に照らされた赤子の頬の柔らかさに、呑み込まれていく。僕の、綴る文章に意味なんてない。ただ、一筋の炎が、辺りをまんべんなく灯し続けるから、その幻が消えないように、ひたすら祈り続けているのだ。

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思考

気持ちのかたまり

 誰も傷つけずに生きていくのは、難しい。分かってはいるけど、不意に、相手を悲しませた瞬間に、後悔するときが、多くある。僕は、いつまでたっても、不器用なのだ。できるだけ、波風が立たないように普通にしときなさいというけれど、それが、どんなに愚かで、つまらなくて、虚しいものなのかを、あなたは分かっていない。ありのままでいることが、あなたの個性を生み出すのよという言葉とはうらはらに、埋没していくだれにも届けることができなかった数々の思いたちは、春の風とともに、風化していくだろう。それらの思いを、僕は「気持ちのかたまり」と呼ぶ。

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・重みのあるもの
 穏やかな、なにげない日常のなかで、もう僕は、宇宙の広さや、やがて訪れる死について案じることもなかった。なにもかもが足りないようで、いつまでも満たされない感情だけが、膨れ上がっていく。それは、概念と呼ぶにはあまりにも生々しく、現実的な重みをもったものだ。

・暗喩
 世界は今日も、音をたてることなく、呼吸をしている。僕も、その息づかいと連動するように、呼吸をする。夜空にかがやく星のきらめきも、うすっぺらい野原をかける風も、とぎれのない川の流れも、決して自分と無縁のところでおこなわれているわけではないのだ。僕は、だれかに理解して欲しいなんて、思っていない。「理解とは誤解の総体に過ぎない」と誰かが口にした。そんなややこしい暗喩を、ひけらかしたいんじゃない。だって僕らには、愉快な回り道をしている余裕なんて、ないんだから。今日も、少しずつ季節が回転している。

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 これからは、シフトを変えよう。少し早いかもしれないけど、僕は、ゆるやかに死に向かう準備をしなくてはならない。そんな大げさなことじゃなくて、ただ心の持ちようの問題だ。生きることだけに、多くの力を割くというのは、案外しんどいのだ。僕にとっては。
 その人自身の人生の価値なんて、誰にも分からない。あるいは、成功ではなく、その破れさりかたによって、本当の価値が定まると、僕は思っている。当然のことながら、だれもが限りある存在なのだから、いつかは終わるのだ。それを待ちわびる余生があって然るべきだと、季節を象徴するかのように、緑を揺さぶる風が、教えてくれた。