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映画レビュー

026 「重力ピエロ」(2009)

<基本情報>
第129回直木賞の候補となった、伊坂幸太郎の小説を、映画化。
監督は、森淳一が務める。
仙台で起きる、連続放火事件を軸に、家族が抱える謎が、解き明かされていく。
主題歌は、S.R.Sの「Sometimes」。

 特に、何もしない休日。だらだらと朝を過ごし、好きな時間に、飯にありつく。いつものソファーに陣取り、リビングのテレビに、目を向ける。カーテンの隙間から、日光が差し込み、少しまぶしい。飲みかけの水を横目に、タバコを燻らす。そのときに観る映画が、こんな作品だといいなと思える。世界には、面白い話を考える人がいるんだなと、感傷に浸る。次々と、生まれてくるストーリーと、変わりゆく季節。それと反転する、代り映えのない日常と、だらしない自分。だけど、空想の物語は、特段、それを責め立てることは、しない。むしろ、僕の救いになっていく。

 容姿端麗の春(岡田将生)の部屋が、印象に残る。雑然としているようで、一貫性のある嗜好。プライベートな空間を、好きな物で、埋め尽くす、狂気。自分のなかに、人とは違う異質な部分を、認識した時から、生きにくくなった。周りの人間全てが、幸せそうにみえて、どんどん取り残されていく。焦る感情とは、裏腹に、ときは、どんどん過ぎていく。なにかに縋らなければ、正気を保っていられない。それでも、彼は、ひとつの確信とともに、暮らしていく。ミステリーを好んで、観るわけじゃない。いちいち、頭のなかを整理して、展開を待たなければいけないもどかしさが、煩わしい。だけど、この作品は、静かな微熱を保ちながら、きめ細かい振動を、心に伝える。

 家族の絆について、考えざる得ない。春の兄の泉水(加瀬亮)は、大学院で遺伝子の研究をしている。家族への愛情は、血のつながり故の愛おしさなのか。2人の兄弟の関係性、程よい距離感、相手を思いやる気持ち、両親への思い、それら全てが、ひとつの線になって、事件の核心へと迫っていく。僕らは、たえず重力に縛られている。だけど、その重みを忘れてしまうくらい、楽しい瞬間がある。たぶん、それは、幼い頃に、家族と過ごした思い出の中に、潜んでいるのかもしれない。大人になっても消えない、その存在を、より明確にしてくれる役割を、この映画は、担っているような気がする。

作成者: 木下 拓也

1987年、大阪生まれ。ライター志望。
兵庫の大学を卒業してから、フリーターとして働いています。
セクシュアリティーは、人生を豊かにすると信じる人間です。
書いて、伝えることを大切にしています。

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