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映画レビュー

025 「舟を編む」(2013)

<基本情報>
2012年、本屋大賞で第1位に輝いた、三浦しをんの小説を、映画化。
第86回アカデミー賞外国語映画賞の、日本代表に選ばれる。
第37回日本アカデミー賞では、最優秀作品賞ほか、6冠に輝く。
監督は、石井裕也が務める。

 言葉を、扱う仕事にたいする、熱意が、心地いい。舟のようにたゆたう、言語は、そっと、心の隙間をうめる。人と人をつなぎとめるのは、いつも、あなたのセリフだったように思う。優しさ、悲しみ、怒り、いくつもの感情が、僕の表現へと、変化していく。とめどなく流れる河を、漕ぐように辿る人生は、いつか孤高の岸辺へと、着岸する。そのとき、僕は、辞書の中に眠る、一節の文章を、思い出すかもしれない。それが、意味や、存在、生きる理由へと、繋がっている気がするからだ。

 主人公・馬締光也(松田龍平)は、とある辞書編集部に、配属される。そこで、新しい辞書づくりに没頭する。彼の、実直な性格や、頑固で生真面目な一面が、細かく描写されている。それが、気付かぬうちに、彼への好意に、豹変していく。クラスに、ひとりこんな奴が、居たかもしれない。周りに対して、媚びずに、自分の考えを貫く。そんな彼の人柄に惹かれる一方、不器用なところで、衝突しあう。そうやって、個性的な同僚と、距離を縮めていくストーリーが、観ている者に、静かに、届く。

 そして、光也は、林香具矢(宮崎あおい)と、出会う。好きな相手に、思いを伝えるとき、言葉が、必要になる。それは、分かっている。だけど、ここぞというときに、口が、うまく回らない。人間ていうのは、うまい具合に、ぽんこつなんだなと思う。それでも、必死に、アプローチしようとする情熱が、彼には、あった。それは、たくさんの時間をかけて、絆へと、変わっていく。その経過を、決して、大げさにするんじゃなくて、地に足がついた手法で、描いていく。

 インターネットで、気軽に、検索できる。だから、紙の辞書なんか、いらない。そういう人も、いるだろう。それでも、書店には、いつものように、辞典が並ぶ。その理由を、この作品は、伝えようしている。「作り手側」の視点から、モノを創造する過程を、丁寧に連ねることによって。けっして、スケールの大きな、展開はでてこない。人生の教訓を、語ろうともしていない。だけど、心に、じわりと入り込んでくる。それは、他人の気持ちを、分からないなりに、理解しようとする、ひたむきさが、テーマだからだ。

作成者: 木下 拓也

1987年、大阪生まれ。ライター志望。
兵庫の大学を卒業してから、フリーターとして働いています。
セクシュアリティーは、人生を豊かにすると信じる人間です。
書いて、伝えることを大切にしています。

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