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映画レビュー

020 「タンジェリン」(2017)

<基本情報>
全編スマートフォンで撮影された、異色の本作。
第28回東京国際映画祭のワールド・フォーカス部門で上映され、話題を呼んだ。
監督・脚本・撮影など、すべて手がけたのは、エネルギッシュな映像で知られる、ショーン・ベイカー。

 ロサンゼルスを舞台に、トランスジェンダーである彼女達の日常を、そのまま切り取ったかのような、ドキュメンタリーの様相を帯びている。クリスマス・イブに巻き起こる騒動が、リアルな視点で、描き出される。家族で食卓を囲んで、ローストチキンをほおばるような、幸せの形もある。だけど、この作品は、そんな生易しいものではない展開に、溢れている。人間くさいと言ってもいい。浮気、セックス、友情、マイノリティー、それぞれの思惑が、芯のある物語とともに、絡み合っていく。

 心と体の性別に差がある人たち。言葉では、理解できる。苦しみや、葛藤を想像してみる。彼らについて、知ってみたい。それと同時に、セクシュアリティーという、繊細な問題にたいして、土足で踏み込むようなことは、したくないと思う。ふとした言葉が、相手を傷つけてしまうかもしれない。だけど、この映画の登場人物たちは、そんな僕らの考えを、きにもとめない。むしろ、跳ね返してくる。力強さがある。だから、安心して笑うことができる。嫉妬という感情に、翻弄されながらも、自分に正直に生きようとする姿に、共感を覚える感覚は、嫌いじゃない。

 主人公・シンディは、娼婦として働いている。体を売るという仕事にたいして、差別的にみたり、蔑んだ目でみたりしてしまう人が、いるかもしれない。だからといって、社会から排除していいなんて姿勢は、間違っている。この社会には、そうやって生きていくことを選択した人たちがいる。堂々と胸をはればいい。そして、幸せになる歩みを止めないで欲しい。人間は、いつも合理的な行為をするだけじゃない。ときに間違ったり、意味もないことをしたりする。それが、僕たちの生きる世界の現実だ。その、言葉では、あらわすことの難しい部分を、全面的に表現する手法は、斬新だ。

作成者: 木下 拓也

1987年、大阪生まれ。ライター志望。
兵庫の大学を卒業してから、フリーターとして働いています。
セクシュアリティーは、人生を豊かにすると信じる人間です。
書いて、伝えることを大切にしています。

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