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映画レビュー

016 「南瓜とマヨネーズ」(2017)

<基本情報>
魚喃キリコのコミックを、実写化。
監督は、「ローリング」の冨永昌敬が務める。
主人公のツチダ(臼田あさ美)と、その恋人・せいいち(仲野太賀)の揺れ動く、関係性を、独特のタッチで、瑞々しく描く。

 恋愛をテーマにした映画って、すごく難しいと思う。他人と、どう向き合うのかは、価値観が、ひとそれぞれだから。ある人の共感をえたとしても、その一方で、理解がえられないなんてことは、多々ある。だからといって、万人受けするストーリーは、ありきたりな展開になって、つまらない。

 ミュージシャンを目指すせいいちは、信念というか、音楽にたいする熱意を、持ち合わせている。でも、それだけでは、人生はうまくいかない。暮らしていくには、お金がいる。やりたくない仕事だって、しなければならない。そんな彼を支えるツチダは、キャバクラで仕事をするようになる。どのシーンも、とても地に足着いた演出に溢れていて、うまい具合に生活感を漂わせている。それが、観ている人に、リアルな印象を与える。

 中盤に、突如、元彼氏・ハギオ(オダギリジョー)が登場する。その彼の性格が、人懐っこくて、すぐ他人の生活圏に足を踏み入れるようなやつだ。どこか、危なっかしい雰囲気に、ツチダは、再び惹かれていく。そんな、彼女の行動が、正しいとか、間違っているとかの議論は、もはや、ばかばかしい。恋愛なんてものは、そもそも、真実とか、常識とか、既成概念を相手にせず、どれだけ自由になれるかに、かかっている。おろかな人間の、心に潜む孤独を暴きだす、とてつもなく、厄介なものだ。

 胸が苦しくなって、なにも手につかないなんて、そんな感情は、もうない。だけど、映像を通じて、そのほんのわずかな面影を、思い出す。それは、とても幸せな瞬間だ。どこのだれかも分からない、スクリーンの中の登場人物に思いを馳せる僕らは、なんだかんだいって、安易だなと思う。でも、それでいい。かしこまる必要なんて、ない。自分が生きやすい方へ歩くという、シンプルな考えは、案外、力強い。

作成者: 木下 拓也

1987年、大阪生まれ。ライター志望。
兵庫の大学を卒業してから、フリーターとして働いています。
セクシュアリティーは、人生を豊かにすると信じる人間です。
書いて、伝えることを大切にしています。

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