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映画レビュー

012 「彼の見つめる先に」(2018)

<基本情報>
「ブラジル映画祭2015」で上映され、3年間の沈黙を経て、2018年、劇場公開された。
2010年の短編映画「今日はひとりで帰りたくない」を、ダニエル・ヒベイロ監督自身が、同じ俳優陣を起用し、長編化した。
盲目の高校生・レオと、幼なじみの女の子・ジョバンナ、転校生の少年・ガブリエルを中心に、若者の多感な日常を、いとけない部分を残しながら、鮮やかに映しだす。

 主人公のレオは、目が見えない。それをからかう同級生がいる。それでも、同じ教室で、みんなと同じように机を並べて勉強するシーンが、印象に残っている。障がいという特性を理由に、子どもたちを分断しない。きっと、ブラジルの教育環境では、はやいうちから、この社会に、多様な属性をもった人間がいることを知ることができる。たぶん、学校とは、本来、そうあるべきなんだということに気付く。

 そして、彼は、転校生のガブリエルと距離を縮めていく。その内容をみるかぎり、この作品は、障がいをテーマにしているだとか、同性愛を主題にしているという、誤解をうむことになる。一度、この作品を観て欲しい。ここで営まれている世界では、両親に愛され、クラスメイトの助けられながら日々を紡ぐどこにでもいる、目が不自由な男の子が、あたり前のように、ごく自然に、少年と恋をする。

 日本にも、同性同士の恋愛を描いたドラマや映画はある。でも、まだ色物扱いを、抜けきれていない。それは、まだ、性の多様な在り方や、LGBTといったセクシュアリティーにたいして、寛容になっていないからだろう。でも、まず、ここで僕ら当事者が、発信しなければいけないのは、この社会で、同じように悲しみ、傷つき、ときには、笑いあって、なんとか日々を乗り越えようとしている事実だけだ。それを、この映画は、教えてくれる。

 それでも、理解が生まれないのなら、適度な距離感を、保てばいい。なにも、みんながみんな、違いを認めあいましょうみたいな考えに、染まることはない。ただ、映画という手法で、同性愛や、障がいを取り入れたものを、世の中にむけて、作ろうとしている表現者がいることが、僕は、嬉しい。たぶん、そうすることで、社会における反感や差別に目を向けたり、新たな気づきがあるからだ。

作成者: 木下 拓也

1987年、大阪生まれ。ライター志望。
兵庫の大学を卒業してから、フリーターとして働いています。
セクシュアリティーは、人生を豊かにすると信じる人間です。
書いて、伝えることを大切にしています。

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