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映画レビュー

009 「トマトのしずく」(2017)

<基本情報>
2012年に、すでに完成されていたが、公開が見送られていた。
「お蔵出し映画祭2015」で、グランプリと観客賞を受賞し、ようやく2017年1月に解禁された。
主演に、小西真奈美を迎え、相手役に吉沢悠が抜擢されている。
監督は「誘拐ラプソディー」の榊英雄が務める。

 誰にだって、相手との距離と取り方で、うまくいかないことがある。近しい存在であればあるほど、複雑な問題になっていく。家族という関係性は、その言葉では、簡単に言い表すことのできない、やっかいなものだ。同じ月日を、共有してきたからこそ、分かることだってあるし、分からないこともある。ささいのことがきっかけで、許すことができなかったり、意地になって仲直りする機会を見過ごしてしまう。

 この物語は、父と娘の行き違いが、軸となって展開される。疎遠になっていた2人が、娘の入籍を機に、お互いの存在を改め直していく。その過程が、言葉少なめに、丁寧に描写されている。不器用な性格だからこそ、思っている気持ちを素直に、口にできない。そのもどかしさは、僕らの人生に、どうしようもなく、降り注ぐ。いびつなまでの感情は、行き場を失う。

 幸せの形は、人それぞれだと思う。大学をでる、就職する、結婚する、子どもを授かる、そのどれもが、どんなに努力をしても、果たせない夢に終わることだってある。けれど、それで何もかもを、諦めてしまうことはない。ときには、自分の弱さが嫌になることだってある。だけど、それでも、幸せになろうと翻弄する姿が、僕は、好きだ。

 とくに激しい起伏があったり、山場が用意されているわけではない。そういった意味では、観る人を選ぶ作品かもしれない。でも、観終わったあとに、ほっこり幸せを感じられるつくりになっている。家庭菜園で、一生懸命、栽培されたトマトの色が、赤々しく、瑞々しい。それは、きっとこれからの、親子の関係をほぐす、役目となる。そして、愛を伝える意味を教えてくれる。

作成者: 木下 拓也

1987年、大阪生まれ。ライター志望。
兵庫の大学を卒業してから、フリーターとして働いています。
セクシュアリティーは、人生を豊かにすると信じる人間です。
書いて、伝えることを大切にしています。

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