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映画レビュー

036 「メランコリック」(2019)

<基本情報>
映画製作ユニット「One Goose」による、第一弾目となる作品。
第31回東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ」部門で、監督賞に輝く。
監督は、田中征爾が務め、新人とは思えぬ、技巧に長けた演出をみせる。

 タイトルや、醸し出す雰囲気が、まず、その作品の顔になる。「メランコリック」という言葉の意味について、考えたところで、なにか答えに辿り着くとは、思えない。たしか、この前、読んだ本のなかに、そんなワードが、散りばめられていた。とても、重々しく、深い用語として。(内容については、なぜかすっかり忘れてしまったけど。)それで、僕は、この映画を観ることになる。私達と、物語をつなぐものなんて、所詮、そんなものだ。だけど、複雑で、愛おしい出会いになることがある。

 近所にある銭湯は、夜になると人を殺す場所として、貸し出されている。異色な設定だけど、そこから、どんな展開になるんだろうという、興味を、観る側に、持たせる。名門大学を卒業し、アルバイトをしていた主人公、和彦(皆川暢二)は、そこで働くことになる。優秀な大学をでたならば、いい会社に就職をして、幸せにならないといけないのか。彼が、そう話すシーンがある。生きるうえで、それぞれが何に価値を見出すのかは、自由だ。それは、たぶん、各々に降り掛かる難題で、だけど、その問いかけが、暮らしに、彩りを加える。

 僕らは、たえず憂鬱な気持ちを、抱いている。なにか特別に悲しいことが、あったわけでもない。だけど、目の前に立ちはだかる人生は、なぜか、悲しみでいっぱいだ。ときには、幸せな気分が、訪れる。それは、ほんの一瞬で、時間が経てば、何事もなく、いつもと変わらない日常に舞い戻る。埃まみれの、泥くさい日々。だけど、なにものにも代え難い。それとは対照的な、バイオレンスな要素を含みながら、描かれる世界は、なぜか、哀愁をも、生み出していく。

作成者: 木下 拓也

1987年、大阪生まれ。ライター志望。
兵庫の大学を卒業してから、フリーターとして働いています。
セクシュアリティーは、人生を豊かにすると信じる人間です。
書いて、伝えることを大切にしています。

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