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映画レビュー

022 「西の魔女が死んだ」(2008)

<基本情報>
170万部を突破し、ロングセラーとなった梨木香歩の小説を、映画化。
監督は、「8月のクリスマス」の長崎俊一が、務める。
祖母役として、サチ・パーカーが主演をはる。
主題歌は、手嶌葵の「虹」。

 自分が年老いていき、いつか老人になるんだと思う。だけど、そこにどんな私がいるのかが、驚くほど、想像できない。どんな暮らしをしているのか、だれか連れ添う人はいるのか、孤独のうちに身を置いているのか、不確かな未来だけど、確実に、今の延長上に、それは、ある。田舎で生活する、イギリス人のおばあちゃんは、魔女と呼ばれていた。彼女の、自然とともに調和しながら、生きていく様は、観る人の心に、不思議な安心を、もたらす。都会で暮らすことに、慣れてしまった僕たちにとって、本当に生きていく上での、必要な力を、教えてくれる。

 まいは、学校になじめず、不登校になっていた。少女から、女性になる年頃の女の子の、憂鬱にも似た薄暗い感情。周囲に対して、冷めた眼差しを向ける、いたいけな瞳。ひとりひとり、成長するスピードは、確実に違う。その中で、教室に詰め込まれて、その他大勢と仲良くすることを余儀なくされることは、一部の人にとっては、苦痛かもしれない。なんの疑問も持たずにすめば、楽になれるのにと、何度も考える。ぱっとしない毎日、先行き不安な将来、大人になっていくことに、ためらいを感じる瞬間ほど、恐ろしいことはない。だけど、時は、無情にも、進んでいく。

 人は、死んだあと、どうなるんだろう。それは、凡庸な問いかけかもしれない。だけど、いつからか、年を重ねるにつれて、重大なテーマになっていく。生きる方法は、様々なのに、死んでいく術は、決まっている。忌々しい自我を、手放したいと願う一方、無になることを遠ざける。なにか、答えを欲しがる愚かで、浅はかな自分。焦りだけが、ただ降り積もっていく。だけど、幾度となく繰り返される日常に、ゆとりが生まれたとき、ふっと、気持ちが軽くなる。この作品は、そんな魂の琴線に、そっと触れるかもしれない。

作成者: 木下 拓也

1987年、大阪生まれ。ライター志望。
兵庫の大学を卒業してから、フリーターとして働いています。
セクシュアリティーは、人生を豊かにすると信じる人間です。
書いて、伝えることを大切にしています。

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