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映画レビュー

013 「おじいちゃん、死んじゃったって。」(2017)

<基本情報>
ソフトバンクなどのCM演出を手がける、森ガキ侑大が監督を務める。
映画初主演となる岸井ゆきのが、祖父の死をきっかけに、親族たちとの交流を重ね、本当の家族の形を模索していく主人公を熱演。
親類たちを岩松了、水野美紀、美保純、岡山天音が演じる。

 家族も、いつか亡くなる。存在することが、あたり前すぎて、その不在を想定するのが困難なときがある。ふと、そうした時期にさしかかったときに、噛みしめる感情がある。どうして、人は大切なものや、かけがえのないものを、失ってからじゃないと、気付くことができないんだろう。幼い頃に世話になった、恩を返したいと思う頃に、その人は、もういない。

 吉子(岸井ゆきの)は、彼氏とセックスしている最中に、ある電話をうける。それは、祖父の死を報せるものだった。そのことについて、彼女は罪悪感を持ってしまう。べつに、悪いことをしているわけでは、ないのだけど。生と死と性が、複雑に絡み合う世界は、どこか虚しくて、寂しい。自分の中にある孤独を再発見していくなかで、それでも、葬儀に集まった親戚たちと、言葉を交わしていくうちに、死者にたいする尊厳を学んでいく。

 海外でロケが行われたシーンがある。たぶん、国や宗教によって、死を弔う方法だったり、死んだ後の世界の考え方だったりが、いろいろ違ってくる。彼女は、祖父の葬儀のあと、インドを訪問する。それが、示す意味だったり、捉え方はひとそれそれなのだが、僕は、すごく必然的な流れだと思った。死という、いっけん、悲しい事柄に該当するものにたいして、ふたをするんじゃなくて、日常の身近なところに、それは、あることを、教えてくれる。

 脇をかためる、親類たちの演技が、とてもナチュラルで、共感できる。家族って、そんなものだよねとか、たまに親族で集まったら、そういう展開が起きるよねっていう、すごくありふれた場面を、あらためてスクリーンを通して鑑賞するという体験は、今まであったようで、ないものなので、新鮮だ。親戚の叔父さんが煩わしかったり、小言をいってくる母を避けてしまったり、痴呆症の祖母を面倒に思ったりするけど、家族というシンプルな関係を、再構築していく物語は、力強い。

作成者: 木下 拓也

1987年、大阪生まれ。ライター志望。
兵庫の大学を卒業してから、フリーターとして働いています。
セクシュアリティーは、人生を豊かにすると信じる人間です。
書いて、伝えることを大切にしています。

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