<基本情報>
テレビドラマ「相棒」で知られる東伸児が、劇場映画で初めての監督を務める。
直木賞作家に名を連ねる、乃南アサのベストセラー小説を映画化。
社会から孤立している青年を林遣都が、田舎に住む老婆を市原悦子が、それぞれ演じる。
道を踏み外し、非行に走る人がいる。そんなやつらは、どうしようもないんだから、社会からそそくさと排除されてしかるべきだという意見は、あまりにも、稚拙だ。悪に手を染めることでしか、生きていく手段がなかったとき、迷惑をかけず一人で死んでいくべきだったという理論は、この世界をどうしようもなく、息苦しくする。
宮崎県の自然あふれる景色が、観るものを癒す。美しい映像なので、実際に訪れたい気持ちになる。たぶん荒んだ心を回復するには、緑に囲まれた場所で、ゆっくり静養することが、必要なのかもしれない。主人公の青年・伊豆見もまた、温かい田舎の人々にふれ、少しずつ更生していく。
村で、一人で暮らすおばあちゃん(スマ)の台詞が、印象的。「坊はええ子」という言葉が、荒れ果てた伊豆見に染み渡っていくのが、分かる。誰にだって、褒められたい時がある。でも、世間というものは、冷たいのが常だ。この物語は、優しい素直な村人たちが、僕らに、生きる価値があるというあたりまえのことを、教えてくれる。
居場所のない哀れみは、いつか焦燥にかわる。あなたは、そこにいてもいいんだよという、簡単な言葉が、届かない。必要とされることの難しさ、あるいは、人生が行き詰まるジレンマが、行く手を阻む。もう、どこにも行くあてのない人間が、豊かな精神性を帯びていく姿は、王道なストーリーかもしれないけど、胸をうつ。