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映画レビュー

007 「オーバー・フェンス」(2016)

<基本情報>
佐藤泰志の芥川賞候補作を、確かな演技力を誇る実力派俳優を迎えて映画化。
監督は「苦役列車」の山下敦弘が務めた。
函館の職業訓練校に通う彼らを中心に、それぞれが孤独を抱えた人生に向き合う姿が、独特なタッチで描かれている。

 社会は、何食わぬ顔をして、優秀な人材を求め、そうじゃない人を追い込んでいく。能力の高い人が、それに応じた収入を得ることに、文句をいいたいわけではない。ただ、もう少し、生きることにぶきっちょうな人(例えば、僕のような)が、日の目をみることのできるような世界であってほしい。

 満島真之介が演じる森由人が、印象に残っている。彼は、いわゆる不器用で、それが原因で仲間からも疎ましく思われている。何をやっても上手にできない、感情をうまく表現できない、一人でもんもんと考え込んでしまう、これらの特徴をもったキャラクターが見事に再現されている。彼が想いを爆発させるシーンは、痛々しさをも、帯びている。でも、それでも、たとえ、たどたどしく話すことしかできないとしても、生活していかなければならないし、お金だって稼がないといけないし、なんだったら幸せにならないといけない。

 動物園で暮らす動物たちは、たぶん目の前のフェンスを越えることなく死んでいく。いわば、そこで生きていくしか選択肢がないのだ。でも、人間はちがう。たとえ、四方が壁に囲まれても、それを越えていく力が宿っているはずだ。生まれ持った個性を、発揮できる場所へと向かうことができる。自分の意思で。

 人生は、大半がうまくいかない。それは、長く生きるほど分かってくる。それでも僕らは、思いどおりに生きていくべきだ。やりがいのある仕事に就くことなんて必要ない。理想の人に巡り会い、愛のある生活が続く必要なんてない。希望のない日常でも、生きていく価値がある。なにかしらの救いがある。幸せは、誰かが独占できるものではない。そう、教えてくれる作品だ。

作成者: 木下 拓也

1987年、大阪生まれ。ライター志望。
兵庫の大学を卒業してから、フリーターとして働いています。
セクシュアリティーは、人生を豊かにすると信じる人間です。
書いて、伝えることを大切にしています。

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