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映画レビュー

004 「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」(2017)

<基本情報>
監督は、ジャン=マルク・バレ。
演技派で知られるジェイク・ギレンホールを主演に迎える。
原題は、「DEMOLITION」(解体、分解)。
容姿端麗な妻を亡くした男の、心の再生を描いたドラマ。
劇中で使われている、ハートの「Crazy On You」など、音楽の効果も、作品に大きな幅をきかせている。

 突然、家族を亡くしたときの悲しみは、その当事者にしか分からない。そして、それを乗り越えていく手法は、確立されているわけではない。人は、突然訪れた不幸に対して、ただもがく程度のことしかできないのだ。この物語の主人公は、一滴の涙さえ流さない自分に戸惑いながらも、不器用だが、懸命に、起きてしまった事故に向き合おうとする。

 原題にあるように、彼は身の回りのいろんなものを、破壊していく。そうすることによって、心の在り処を見つけようとする。周囲の人は、狂気じみた行為に、怪訝な顔をするのだが、それくらいが、丁度いいと、僕は思っている。大切な人を失ってしまったときくらい、人は不合理になってしまっていい。ずっと、正常でいることの方が、狂っている。それを、この作品が、教えてくれた。

 自分自身を、ゲイだと自覚し始める年頃の少年が、登場する。彼との交流によって、主人公は、素直に生きる術を学んでいく。一目もはばからず音楽にのったり、幸せでいるには笑顔が欠かせないと諭すように、一緒に笑ったりする。たわいもないやりとりが、徐々に、自分の成すべきことを明確にしていく。

 いってみれば、これは、悲しみの感情を、表に出せない人への、あるひとつの答えとも言える。ありとあらゆる感情は、綿密に、心の中に溜まっていく。それを吐き出す術をもたないくらいに、不健康なことはない。「愛は、そこにあった。ただ、それを疎かにしていた」と、気付いていく人間の、清々しと、実直さは、観る人の心をわしづかみにする。

作成者: 木下 拓也

1987年、大阪生まれ。ライター志望。
兵庫の大学を卒業してから、フリーターとして働いています。
セクシュアリティーは、人生を豊かにすると信じる人間です。
書いて、伝えることを大切にしています。

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