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映画レビュー

044 「his」(2020)

<基本情報>
2019年にドラマで放映され、話題を呼んだ。
今作は、その出会いから、13年後を描く。
俊英の宮沢氷魚が、初主演をかざる。
Sano ibukiの「マリアロード」を、主題歌に、起用。
監督は、「愛がなんだ」の、今泉力哉が務める。

 変わりつつある、家族のかたち。ペットだって、大事な家族の一員になる。そんな時代に、同性同士のカップルが、子どもを育てるなんて、珍しくない。はたして、本当にそうだろうか。現実に、立ちはだかる壁は、そう低くはない。伝統的な価値観を、守ろうとする。知らずのうちに、自分のなかにある、偏見や差別。それを、乗り越えて、違いを認めていく勇気が、僕らには、あるんだろうか。揺れ動く社会のなかで、自分の居場所さえ、ままならない。

 結婚という制度によって、得ることのできる権利。それを、自覚している人が、いったい、どれくらいいるんだろう。愛し合った者同士が、一緒に暮らすことさえ、ままならない時が、ある。法律は、いつも平等を約束してくれるとは、限らない。享受できることが、あたりまえすぎて、無自覚になる。マジョリティー側の都合で、物事が進んでいく。少数派を、排除することで、安心を得ようとする。自分は、さも、公平さを保持しているかのように、振る舞う。だけど、言っておこう。あなたの中に、存在する憎しみを他人にぶつけても、なにも、変わっていかない。

 田舎で、男2人と、娘の空(外村紗玖良)の3人で暮らす様を、周囲の人が、受け入れていく。でも、いつまでも、うやむやにできない焦燥感が、当事者にふりかかる。同性愛者ということを、話す必要があるのかという声を、聞く。自分のセクシュアリティーに、誠実にあろうとすれば、説明を余儀なくされる。それを、受け取った側の、描かれ方が、印象的だ。人間味のある、奥深い優しさに溢れている。「多様性」を構築していくために、必要な寛容性について、たぶん、もう、僕らは、気付き始めている。

作成者: 木下 拓也

1987年、大阪生まれ。ライター志望。
兵庫の大学を卒業してから、フリーターとして働いています。
セクシュアリティーは、人生を豊かにすると信じる人間です。
書いて、伝えることを大切にしています。

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