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映画レビュー

041 「ヒトラーの忘れもの」(2016)

<基本情報>
2015年に、第28回東京国際映画祭コンペティション部門に出品される。
その際の、題名は、「地雷と少年兵」。
戦争の爪痕として、デンマークの海岸に残された地雷。
それを、取り除く使命を課せられたのは、ドイツの少年兵たちだった。
マーチン・ピータ・サンフリト監督が、史実をもとに、過酷な現場の様子を、えぐりだしていく。

 ナチス・ドイツを題材にした作品は、いくつもある。ヒトラー率いる帝国軍が、してきたことを、ここで議論するつもりは、ない。第二次世界大戦後においても、なお、それらの映画が生まれることの、意味や、成り立ち、関係性について、もっと見直されるべきではないか。この物語は、ただ単に、反戦を唱えているわけでなはい。人は、できるだけ、死なない方が、いいだろう。みんなが、そう思っている。だけど、現実は、違う。今日もまた、どこかで、なんの落度もない人間が、不条理に死んでいく。そのリアリティーを、映像を通して伝えていく。

 国家の指令によって、翻弄される、かけがえのない人生。消えていく命。歴史から、見えてくる、人間のなかに内在する暴力性。どれだけの個人の尊厳を奪っていけば、自らの行為を、改めることができるんだろう。映画を鑑賞して、心が和んだり、癒されたりする。そんな体験を望む人に、今作は、おすすめできない。その理由は、観れば分かる。どんな言葉でも、表現できない感情がある。胸が、えぐられるような、感覚を、植え付けてくるという点において、この作品は、他と一線を画している。

 ラスムスン軍曹(ローラン・モラー)は、ナチスに、強い憎しみを持っている。けれど、徐々に、その怒りをぶつける相手について、深く考え込むようになる。その変化していく心情を、見事に演じていく。戦争が終わっても、なお、人間に残していった憎悪。その思いは、これからを、生きていく者への「愛」へと豹変していく。戦争や、餓えを知らない、僕の書く文章が、行き着く先は、どこなんだろう。間違いなく、誰かを傷つけていたし、今も、そうなんだと思う。それを自覚して、記憶に残していく作業が必要なようだ。

作成者: 木下 拓也

1987年、大阪生まれ。ライター志望。
兵庫の大学を卒業してから、フリーターとして働いています。
セクシュアリティーは、人生を豊かにすると信じる人間です。
書いて、伝えることを大切にしています。

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