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映画レビュー

040 「僕と世界の方程式」(2017)

<基本情報>
2014年に、イギリスで公開される。
「リトル・ダンサー」の製作者、デヴィッド・M・トンプソンが手掛けた作品。
「ヒューゴの不思議な発明」「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」の、エイサ・バターフィールドが、主役を演じる。
監督は、様々なドキュメンタリーで、高い評価を受けている、モーガン・マシューズが、務める。

 主人公・ネイサンは、自閉症スペクトラムと診断される。周囲との、コミュニケーションが苦手で、母親との関係も、ぎくしゃくしている。こだわりが強く、素数を愛する彼は、たぐいまれな数学の才能を持ち合わせていた。発達障がいという言葉は、よく知られている。ひとむかし前は、そんな病気にたいする知識を持つ人は、極わずかだった。それが、当事者にとって、息苦しく、周りの理解を得られないのは、身を焦がす思いだったにちがいない。この映画によって、正しく分かっていく。僕らは、物語を通じて、世界を、変えていけるのだ。

 そして、彼は、恋をしていく。そこらじゅうにいる、なにも変わらない青年として。思春期に出会う、淡い初恋は、それまでの、世界の見方を、がらりと変えてしまう。もちろん、悩むこともある。だけど、徐々に、他人との気持ちのぶつかりあいに、歓びを感じていく様子は、観るものに、穏やかで、ほのかな衝動を、思い起こさせる。人生は、にがい出来事で、埋め尽くされていく。その反対に、けっして忘れることのできない感情に、巡りあう。段階的に、自分自身を肯定していく経過を、ハートフルに描く。

 数学の問題には、いつも「答え」がある。方程式を組み立てて、学んだとおりにすれば、いつか正解に辿り着く。けれど、生きていくことに、はっきりとした解は、存在しない。誰しもが、少しでもいいように、あるいは、幸せになりたいと願っているはずなのに、歩む道のりは、違う。だけど、それでいい。ネイサンが、自分の頭で考えて、試行錯誤した末に導いた行動が、間違っているとかの、批評は、無意味だ。ひとつ、いえることは、僕らは、絶えず、変化していく。思考も、考えも、心も。その中で、ほんとうに大事な、かけがえのない宝物を、手にしていく。そんな少年の瞳は、澄み切っていて、美しい。

作成者: 木下 拓也

1987年、大阪生まれ。ライター志望。
兵庫の大学を卒業してから、フリーターとして働いています。
セクシュアリティーは、人生を豊かにすると信じる人間です。
書いて、伝えることを大切にしています。

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