<基本情報>
2005年に、刊行された村上春樹の短編集「東京奇譚集」に収められている小説を、映画化。
監督は、「トイレのピエタ」の松永大司が、務める。
ハワイのカウアイ島で起こった、ある親子に纏わる、不思議な物語。
鑑賞後に、この映画に出会ってよかったなと思うときがある。反対に、あまり自分の肌には合わなかったなというときもある。いわゆる、あたりだったか、はずれだったかを、つい分別してしまう。本作は、僕にとって、どちらかと言えば、はずれだった。物語が、淡々と進行していく。起伏に乏しく、感情を揺さぶる展開に出くわさない。けれど、なぜこの作品を、レビューしようと思ったのか。それは、印象度の高さだ。つまらない、だけど、全体に帯びる、独特な雰囲気が、僕の心に、残っている。
まず、僕は、村上春樹という作家の作品を、好んで読んでいる。彼が紡ぎだす文章が、物語として作用するとき、この世界にひとつの、歪みが起きる。それを、きっかけに、魂が、ここじゃない、非現実的な場所へと誘われる。それは、あくまで、小説という形として活字からうける、僕の感想だ。それを、実写化して作品にするというのは、たぶん、とてつもなく難解だと、思う。原作が持っているオリジナリティーを、損なわず、かつ映画という異なる手法で、表現する。万人には、うけない。だけど、あるタイミングが合致して、巡り会うべきときに、この映画に触れたとき、たぶん、あなたのわだかまりが、すっと晴れるかもしれない。
大切な人を亡くしたときに訪れる、喪失感。その感情と向き合うたびに、なにかが割れたような音がしたように、心が痛い。タカシ<佐野玲於(GENERATIONS from EXILE TRIBE)>の突然の訃報を、母親・サチ(吉田羊)は、長い年月をかけて、受け入れていく。それは、他人からすれば、一風変わった、狂気に満ちた行動にうつる。だけど、人間は、べつに、いつも決まりきった行いをするとは限らない。悲しい時に、僕らは、本当の自由を手にする。家族だから、すべての価値観があうことはない。うまくいかないときもある。それでも、死んでしまった息子への思いを、彼女は、少しづつ、形にしていく。その過程でみせる、表情は、言葉では形容しがたい神秘性に、包まれている。