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映画レビュー

021 「ムーンライト」(2017)

<基本情報>
第89回アカデミー賞で、作品賞、脚色賞、助演男優賞の3部門を受賞。
キャストには、「007」シリーズのナオミ・ハリス、テレビドラマ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」のマハーシャラ・アリという名俳優たちが、揃う。
製作総指揮は、アクターとしても評判の高い、ブラッド・ピッドが、務める。

 LGBT、ジェンダー、マイノリティー、次々と生まれる概念は、果たして、人間を生きやすい方へと導いてくれたのか。普通と特殊との間に線引きをして、区別していくことで得られる安心は、幻想じゃないかと思えてくる。その人自身に問題があるとか、ないとかの判断は、たぶん誰にもできない。あくまでも傾向として、それぞれを捉えることができたら、互いの理解に繋がっていく。この社会が、どんなふうにあるべきかを問うことは、ひとり一人が抱える生きづらさと真正面から向き合うことと、同義だと僕は思う。

 マイアミの貧困地域で暮らすシャロンは、小柄な体格のおかげで、周りから「リトル(チビ)」と呼ばれている。男の子は、男の子らしく振る舞うべきだという規範は、一見あたり前のように感じる。そこから外れる者は、排除されてしかるべきだというのは、間違っている。性が倒錯してしまうことに、一抹の不安を覚えるかもしれない。だけど、もう、すでに、性的少数者の問題は、人権課題として認識されている。いまさら多様性を、蔑ろにするほうが、違和感がある。女の子らしく行動する男の子が、いてもいい。それを、受け入れることができるのは、これからを生きる、まぎれもない僕たちなのだ。

 黒人の同性愛をテーマにすることに、なんの意義があるのか。ゲイとして生きること、黒人として生きること、母子家庭に生まれること、薬物に向き合うこと、貧困のさなかで、なにが大切かを知ること、それらすべてが、この映画に組み込まれている。月明かりのしたで、友情以上の感情に、戸惑いながらも、互いの距離を近づけていく場面は、きっと、情緒性に満ちている。少年から、大人になっていく過程で、彼らの容貌も、性格も、生活環境も、大きく変化する。だけれども、変わらない「愛」が、そこには、あった。たぶん、どんなに悲観的なことが起きても、けっして揺るがない、特別な思いを再発見できる。

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詩的表現

リミッター

不完全な

部分を

見せるのが

怖かった。

本当の

自分を

さらけ出した瞬間に

向けられる言葉を

想像する。

弱い存在であること、

無能であること、

役にたたないこと、

自信がないこと、

そんな人間は

きっと

誰からも

必要とされないんだと

思ってた。

価値を決めるのは、

自分ではなく

他者である。

もっともらしい言葉が

とても

陳腐に

見える。

あの日を堺に

僕を

無視し続ける社会で

生きることを

決めた。

というより

それ以外に

道はない。

僕だって

大人になる。

働いたりする。

稼いだお金で

腹を満たしたりする。

理性と感情の狭間で

振り切りそうな

リミッターを

制御することに

疲弊する。

いっそのこと

死に帰結する

思考が

よぎる。

誰かを

傷つけても

構わないと

無邪気に

振るまう

自分が

恐ろしい。

手足の震えが

伝染する。

路上に立つ

ミュージシャンの歌声を

食い入るように

聞いていた。

お前は

無価値であるという声に

抗う。

生きるとは

そういうことだ。

僕は

今日も

あの灯台に登り

風に吹かれる。

少し湿った空気を

おもいっきり

吸い込んで

呼吸をする。

いつもと同じように。